森重専務の「経営の湧き水」

NEW!2026.3月:特別寄稿「制度と現実のあいだに立つ」― 消費税をめぐる五つの視点と、実務家としての応答 ― 第1回 

消費税は「預り金」なのか、それとも付加価値税なのか

消費税は「預り金」である。この説明を、私たちは長年繰り返してきました。確かに、制度の表面だけを見れば、この説明は間違いではありません。事業者は商品やサービスを販売する際に消費税を上乗せし、その税額を国に納める。形式的には、預かった税を納付する仕組みです。

しかし、制度の本質はもう少し深いところにあります。消費税法の構造は、「売上に係る消費税額」から「仕入に係る消費税額」を差し引いて納税額を計算する仕組みになっています。これは単なる預り金の移転ではなく、「付加価値」に対して課税する制度、すなわちVAT(付加価値税)です。

付加価値とは、企業が生み出した価値そのものです。売上から外部に支払った原価を差し引いた部分であり、企業の存在価値の源泉です。消費税は、その付加価値に対して課税する仕組みとして設計されています。つまり法律の構造としては、消費税は一貫して合理的な体系を持っています。

問題は、制度が「価格転嫁できること」を前提としている点にあります。制度上は、消費税は販売価格に上乗せされ、最終的には消費者が負担することが想定されています。しかし、この前提は法律上の前提であって、市場が保証してくれる前提ではありません。

ここに、制度と現実の最初の接点があります。

税制は理論で設計されます。しかし経営は市場の中で行われます。制度がどれほど整合していても、市場の現実の中でどのように作用するかは、別の問題です。

専門家として制度の合理性を理解すると同時に、経営者として市場の現実を理解する。この両方の視点を持たなければ、消費税の本質を正しく捉えることはできません。

消費税は、制度としては付加価値税であり、説明としては預り金とされ、そして現場ではコストとして認識されることがある。この三つの顔を持つ税であることを、まず冷静に理解する必要があります。